幸運の氷水

禁転載

年が変わるっていっても別に俺にはありがたみがない。
あー、また一年経ったのか、ってくらい。
それは多分同居してる魔女も同じらしくて、ティナは年が変わったその翌日、昼頃ようやく起き出してくると、おもむろに桶に冷水を何杯も汲み始めた。うん、お前、何やってるの?
「私の生まれた国では、新年には朝日と共に儀式が行われるんです」
「もう昼過ぎだけどな」
どんだけ寝過ごしてるんだよ。

にしても、こいつが自分の国のこと言うって初めてじゃないか?
珍しいこともあるもんだ。外見変わらないくせに年取ったって気持ちでもあるんだろうか。
「で、それと桶と何の関係があるわけ」
「儀式では、新年最初の日に各家の成人男性が冷水を被り続けて、一年の幸運を祈るというくだりがあります」
「ちょっと待てーい」
お前まさかそんなの俺にやらそうとしてるの?
っていうかそれ、何処の国よ。初めて聞いたぞそんな儀式。
しかしティナは、寝起きの機嫌が悪そうな顔で桶の一つを持つと、無情にも家の裏口を指し示した。
「さ、どうぞ」
「ふざけんな! お前それ、いつの間にか氷浮いてるぞ!」
「水から氷を作り出すという魔法は、中級魔法の上の方になります」
「そういう説明は聞いてない! むしろお前が正気か聞きたい!」
「氷水を十杯被って祈りを捧げたある男は、街一番の美女と結婚出来たという話が残っています」
「やります。貸してください」
氷水を被ったくらいでダイナ嬢と結婚出来るなら、俺は百杯だって氷水被るね!
というわけで庭に出た俺は、上を脱いで一つ目の桶を手に取った。
ティナは水がかからない場所から半眼でこっちを見てる。
「よし! 行くぞ!」
「貴方のその妙な前向きさは何処から来るのか、ちょっと気になってます」
「こっち来て二杯目寄越せ、ティナ!」
「……今更冗談ですって言ったら、殺されそうですね……」

勢いづいて二十杯も氷水を被った俺は、さすがにその翌日から熱を出した。
けど誰が知らせてくれたのか、なんと! 家に! ダイナ嬢が見舞いにきてくれて!
俺は新年から幸運を味わうことに成功したのだった! ティナまじでありがとう!