功罪の足跡 のおまけ

禁転載

「無事何とかなったってことか」
差出人不明の書簡。トライン領にて働くクラリベルのところに送られたそれを、エヴェンは苦笑して読み終えた。
今は定住地を持たない彼の代わりに、彼宛の手紙を保管している少女は首を傾げる。
「何だったんですか?」
「いや……もうちょっと経ったら教えるよ」
柔らかく微笑みかけると、クラリベルはぎこちなくも笑い返した。
国の動乱の中で兄が行方不明になってしまった彼女は、一時はひどく塞ぎこんでいたものだが、今は大分回復してきている。
だが彼女にこの手紙の差出人が誰であるのか、教えるのはまだ早いだろう。アージェの財産を預けられた彼女は今でも監視対象にある。エヴェンはそういった者たちの中で、直接彼女から話を聞き出そうとする狂信者の輩は排除していたが、それでも問題要素を増やす気にはなれなかった。彼は手紙を部屋にあった燭台の火で処分してしまうと、軽く手を払う。
「じゃあまた会いに来るから」
「手紙を取りに来るんですよね。ちゃんと保管しときます」
「手紙のことがなくても会いに来るよ」
―――― アージェにそれを頼まれたからだ、とは言わない。
エヴェンは彼女の前で不用意にその名を出さないようにしていた。兄に関することは彼女が自分で消化するままに任せている。
掴み所のない男を相手に、クラリベルはどう答えればいいものか迷って笑った。

ふらりと出かけては彼女のもとに戻ってくる男と、クラリベルが夫婦になるのはもっとずっと先の話だ。






数年後。

「アージェ、どうしたの? それ妹さんからの手紙でしょう?」
「…………ちょっとエヴェンを殺しに行ってくる。すぐ戻るから」
「?? 気をつけてね」