禁転載
それはアージェがディアドになってから二日目のこと。
レアリアの執務机には余分なものは何もない。
それは職務の場であるからして当然のことなのかもしれないが、アージェからするとむしろ感心するくらいすっきりとしていた。
動物の置物や花飾りで三分の一以上が埋まっていたクラリベルの机と比べて、彼はその淡白さに驚く。
一日のほとんどをここで過ごしている彼女は、周囲に物が少ない方が落ち着くのだろうか。
アージェは自ら入れたお茶を主人に差し出しつつ問うてみた。
「陛下は好きな動物とかいないんですか?」
「動物?」
何故回りくどい質問にしたのかと言えば、単にそれを知っておけば何かの時に役立つかと思ったからだ。
好きな動物を模したものなど、昔のクラリベルは特に喜んだ。
もっとも彼女も少女になるにつれ、動物よりも花を好むようになっていったのだが。
レアリアは首を傾いで考え込む。
「動物……あまり見たことないから……」
「子犬とかは? 尻尾ふさふさしてるやつ」
「子犬? 嫌いではないけれどどうして?」
「何となく」
まさか主人に向かって「あなたが子犬に似てるから」などとはとても言えない。
アージェはつい心の中でレアリアが白金のふさふさ尻尾を揺らしているところを想像して、噴出しそうになった。
それを我慢した為か苦い表情になってしまった騎士を、女皇は目を丸くして見上げる。
「どうしたの? アージェは子犬が好き?」
「割と好きです」
「昔はルトと一緒だったものね。飼いたいなら構わないわ」
「いえ。間に合ってますので」
「間に合ってる?」
平行線の会話は、平行線のまま続いていく。
レアリアはその原因が分からず怪訝な顔になると、少し考えて「鳥が好き」と洩らしたのだった。
「鳥が好き? どんな鳥ですか」
「何でも。飛んでいる姿が好き。この城では見られないし」
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