禁転載
「兄! そのような格好で何をしている!」
「……うるさいな」
天気のよい日の昼下がり、休憩時間に城の中庭で昼寝をしていたアージェは、突如頭上から降ってきた怒声に顔を顰めた。目を開けるとミルザが腰に手を当て彼を覗き込んでいる。
一体何が悪いのか、と反論しかけたが、おそらく先の発言からして上着を脱いで襟元を緩めていることが問題なのだろう。
アージェは欠伸をしながら起き上がると、ついでのように少女の額を叩いた。いい音がしてミルザは後ずさる。
「何するのだ!」
「叩きやすそうなデコしてるから」
「……っ、そのようなふざけた態度であるから、他の者に睨まれるのだぞ! もっときちんとせんか!」
「言いたい奴には言わせとけ」
そっけなく言い捨てたアージェが上着を肩に掛けて歩き出すと、ミルザは小走りに後をついてくる。
まだ何かあるのかと、青年はうんざりした気分になってしまった。
「ついてくるなよ。何か用でもあるのか?」
「よ、用はない」
「なら帰れ」
にべもなく言うと、アージェは足を速めた。
ミルザは一瞬立ち止まったが、再び駆け寄ってくる。肩越しに振り返ると探りを入れるような目で見上げられ、アージェは思わず立ち止まってしまった。
「何だよ」
「い、妹には会いに行っているのか?」
「……また何か企んでるのか?」
「そのようなことはない!」
前科のある少女を睨むと、彼女は首をぶんぶんと横に振る。
だがその問いは、彼女の背を僅かに押したのだろう。ミルザは小さく項垂れた。
「あの時は済まなかった……」
「…………」
腹違いの妹などと言われても大して実感は沸かないが、たまに「仕方ないな」という気分になることがある。
それが或いは血の繋がりという無形の力なのかもしれない。
アージェは大きく溜息をつくと、上着の懐に手を入れた。
「顔上げろよ」
「う……」
視線を逸らつつ、だがミルザが顔を上げると、アージェはその口に飴玉を押し込んだ。
大した意味もなく持ち歩いている空色の飴玉。
それを口に含んだ妹が目を丸くするのを見て、彼は再び歩き出す。
普通の兄妹のように歩み寄ることは一生出来なくても、たまにこうして言葉を交わせるのは平和のうちなのかもしれない。
アージェは一息ついて眠気の残滓を追い出すと、何とはなしに澄んだ青空を見上げたのだった。
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