禁転載
仕事の合間などに、仲介所へ手紙を取りに行くことはここ数年で彼が得た習慣である。
この日もそうして数通の書簡を受け取ったケグスは、中に弟子からの一通を見出し、宿舎の部屋に帰るとそれを真っ先に開封した。
普段から余計なところのない、簡潔な文面を送ってくる青年。
しかしこの日の手紙は更に簡潔だった。そこには師の近況を気にする二文と、自分のことを一文だけ―――― 「ディアドになった」と書かれている。
ケグスはそれを見て思い切り顔を顰めた。
「だからほだされるな、って言っただろうに」
特殊な異能を持つ青年。
何の剣技も身につけていなかった少年の頃から知っている相手が、ついに女皇の騎士になったのだという。
ケグスはそれを「馬鹿だな」と思いつつ、いずれはそうなるものだとも思っていた。
根では情の深い青年は、一度は友人にまでなった女を見捨てることはきっと出来ない。
彼女が恵まれて幸福であればそれでも縁を切ることが出来たかもしれないが、ケグスの目には最初からレアリアは孤独な少女に映っていた。
彼は、お互いの不安と孤独を癒すように寄り添っていた、かつての二人を思い出す。
「馬鹿な奴。助けたいんなら攫って国から出してやりゃよかったんだ。お前が一緒に中に入ってどうするよ」
国に捕らわれることなど馬鹿馬鹿しいと、彼はこれまでの歩みにおいて思っている。
個人の安寧を得たいのなら、もっと遠くへ逃げるしかないのだ。国同士が常にぶつかりあうこの大陸で、それでも平穏な何処かを探して。
ケグスは元通り手紙を畳むと笑った。
「まぁ―――― 何とかなるか」
彼自身は否定的に思えることでも、まだ若い青年であれば別の道を見つけられるのかもしれない。
ケグスは短い手紙をしたため、それを引き出しにしまうと、自分は装備を確認する。
次はいつ何処の戦場に送られるか分からない。共に戦う傭兵の面子もどんどん入れ替わっている。
このように国の宿舎に戻ってこられることも、もうないのかもしれない。それくらい情勢は悪化しているようだった。
扉の叩かれる音がして、彼は剣を手に廊下へ出る。
そこに立っていた兵士の男は、申し訳なさそうな顔でケグスを見やった。
「明日には出立だ。出られるか?」
「出れる」
「すまない……感謝する」
「仕事だ。気にするな」
ケグスはふと思いついて部屋に戻ると、書いたばかりの手紙を「出しておいてくれ」と男に委ねる。
彼の本当の依頼主である兵士は、それを大切に押し戴いて去っていった。
まだ当分終わりそうにない仕事。
それを放棄して逃げ出さない彼自身が、一番愚かなのかもしれない。
ケグスは粗末な寝台に体を投げ出すと、笑いながら目を閉じて「何とかなるだろ」と嘯いた。
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