焼き菓子の味

禁転載

「少年は本当に妹好きだねー」
宿屋の一室の昼下がり、勉強の合間の雑談でカタリナが口にしたのはそんな言葉だった。
ふとしたことで小さい頃の思い出を話したアージェは、予想していたのではない感想に眉を寄せる。
「好きっていうか、家族なんだから当然だろ」
「そうかなー。それにしても好きすぎだと思うよ」
「普通」
きっぱりと否定した少年に、しかしカタリナは温かな目を注いだ。手を伸ばして彼の肩をぽんぽん叩く。
「少年は、お兄ちゃんだけどお母さんなんだね」
「何だそりゃ」
「いやいや、いいお兄ちゃんだよ。羨ましい」
目を閉じて笑う彼女をアージェは見返した。
カタリナは普段自分の家族の話をすることはあまりないが、たまに姉のことを口にする。
彼女自身に比べて美人で優しく誰からも好かれていたというその姉に、アージェは大して興味を持てなかったが、カタリナが姉のことを好いているということはよく分かった。彼が「人のこと言えないだろ」と言うと、カタリナは「にひひ」と笑う。

旅をしている人間は、一年の間にも家族と会わずに過ごす時間の方がずっと長い。
そうして他人同士連れ立って歩いている彼らは、記憶にも残らないほど穏やかな時間を無言で過ごした。
テーブルの上の菓子が残り僅かになった頃、カタリナはふっと微笑んで窓の外を見る。
「早く帰ってやりなよ」
「…………」
「私も帰りたかったな」

彼女が何を思っているのか、どのような道筋を歩いてきたのか、アージェには分からない。
だから彼は「帰ればいいのに」などと言わず、僅かに苦い菓子の最後の一枚を、黙って彼女に差し出したのだった。