禁転載
女皇のお気に入りである青年。その彼は、主君から向けられる執着にまったくお構いなしである。
おそらく自分が気に入られているという意識さえないのだろう。
たまたま廊下にて彼と出くわしたエヴェンは、年下の同僚に好奇心を押し隠した目で話しかけた。
「なな、お前さ、恋人とか作らないの?」
「何で急に? 要らないけど」
そっけなくも見える態度は、女皇に向けているものと変わりない。
エヴェンは「こりゃまったく脈なしか?」と内心大笑いしながら青年の肩を叩く。
「まぁそんなこと言わずにちょっと考えてみろよ。たとえばお前、陛下と四六時中一緒にいて何とも思わないのか?」
「陛下を? 何を思うんだよ」
「女として見るとか」
「あり得ない。それだけはあり得ないな」
「…………」
今自分は、開けてはいけない箱を開けているのかもしれない。
エヴェンの頭の中にふとそんな考えが過ぎったが、彼はそれを無視した。もう少し突っ込んで聞いてみる。
「なぁお前、女に興味ないの?」
「うーん? まったく興味ないってことはないと思うけど、強いて考えたことないな。
女って何考えてるか分からないし、面倒くさい」
「陛下は」
「だから主人はあり得ないって」
「……なるほど」
女性どころか人への関心も薄いのではないかと思わせるディアドは、平然とした横顔を見せているままである。
エヴェンはそれについて「若いんだな」と片付けると、同僚の横に並んで歩き出した。
「妓館でも紹介してやろうか」
「この国にもそういうのあるのか」
「あるある。美人がいるぞ。今日仕事終わるの何時だ」
「面倒くさ……」
「陛下のこと気にしてんの?」
「レアよりは娼妓の方が女に見える」
青年は心底煩わしげにそう言い残すと、さっさと廊下の角を曲がって去っていってしまった。
その後姿を見送ったエヴェンは、けれど背後に嫌な冷気を感じて凍りつく。優美な女の声が耳の後ろを撫でた。
「おもしろい話をしていたわね」
「……陛下」
「逆さづりと水責め、好きな方を選びなさい」
「出来ればどっちも……」
「両方? 逆さづりで水の中に漬ければいいのね?」
「ああああああ! お前のせいだぞ、アージェ!」
「お前こそもう潔く死になさいよ!」
涙目の主君にグーで殴られながら、エヴェンは若き同僚を罵る。
その後彼の姿を見た者は誰もいない。―――― わけではなく、後日アージェはたっぷりと彼に怒られたのだった。
何故怒られたのかは分かっていない。
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