禁転載
母親が亡くなってから、父と妹と三人で暮らしてきたアージェの家は、三年の間全ての家事を当番制でこなしてきた。
で、あるため実際アージェも料理がほどほどに出来る。むしろ父や妹よりその手際はよいくらいだ。
問題は彼の手際ではなく、旅の中で出会ってしまった味の嗜好にある。
他の誰もが涙を流しながら逃げる激辛料理──── それを少年は好んで作るのだ。
「アージェ! お前また殺人団子作りやがったな!」
「殺人って……前に言われたから大分加減したんだけど。普通の味だと思う」
「ならこれは何だ。この真ん中の赤いものは」
「少しぴりっと味をきかせようと思った」
「俺は気絶するかと思った」
何故か鼻が真っ赤になっているケグスの主張に対し、アージェは「そうかな」と心底不思議そうに首を傾げた。既に大量に作ってしまった肉団子を見下ろす。
「じゃあ次回からは気をつける。今日はとりあえずこれをスープに入れて……」
「入れるな」
「勿体無い」
「お前が作った時点で既に勿体無いことになってる」
他の人間の為にもと必死で現実を指摘するケグスに、アージェは胡散臭げな視線を向ける。
あまり納得していなそうな顔で、しかし今回は一応引き下がった少年。
彼の次回の攻撃を予感し、大人たちはその晩「どうすれば激辛の襲撃がなくなるか」を相談する羽目になったのだった。
アージェの作る激辛料理を食べることの出来る人間は、一行の中でもダルトンだけであるが、彼も別に普段から辛いものを好んで食べているわけではない。
宿屋の一室でケグスやカタリナからその件について相談を受けると、歴戦の男はおかしそうに笑った。
「あれは凄いな。目の前が真っ赤になる」
「分かってるなら食うなよ、おやっさん。おやっさんが食うからあいつも平気だと思うんだろ」
「折角坊主が作ってくれたものだし、何よりも面白いからな」
「私はあれ食べるとおなか壊しちゃうので、何とかしたいなー」
「お前も食うなよ……」
困っていると言いながらどこか暢気なカタリナにケグスは白い目を向けた。
料理の手際は、と言えば軽くアージェ以下である学者の女は、腕組みをして大きく頷く。
「問題は、少年に辛いって感覚がほとんどないことにあると思うんだよね。
そこを分かってもらえればもっと配慮してくれるんじゃないかなー」
「どうやって分からせるんだ」
言いながらケグスが、一つに縛られた女の髪を引っ張ると、彼女は「もげちゃう」と騒いで暴れた。
カタリナは男の手を逃れると何とかダルトンの背に逃げ込む。標的を失ったケグスは舌打ちして椅子の背に寄りかかった。
その時女はふと、何かを思い出したように両手を打ち鳴らす。
「そうだ! 私聞いたことあるよ。この辺ですっごく辛い木の実が取れるって」
「殺人凶器を増やしてどうするんだよ」
「だから、それを食べて少年が辛いって思ったら、こっちの勝ちなんじゃないかな」
「…………」
勝ち負けの問題ではないと思うのだが、彼女の言うことも一理ある気がする。
ケグスは少し考えると「それって何処で手に入るんだ?」と腰を浮かしたのだった。
問題の木の実は小さな店で簡単に入手することが出来た。
しかしそれをアージェに与えたケグスは、「あ、これ、すっげ美味い」という感想に絶句し──── 以後この日の自分の行動を激しく後悔することになったのである。
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