mudan tensai genkin desu -yuki
「結婚式の華と言えば、やっぱり暴露話だと思わない?」
「思わない」
うきうきと問うた言葉を切り捨てられ、ルクレツィアはテーブルに頬杖をついた。「あらそう?」と友人の魔女に向かって首を傾げる。
「あんたも行けばいいじゃない。孫の結婚式なんだし」
「行く気はない。興味もない」
「ティナーシャがレグを殴り飛ばしてた話とか暴露しようと思うんだけど。楽しそうよね?」
「まず間違いなく戦闘になるからやめておけ」
ほんの少女の頃から知っている友人が、この度ついに結婚するという。
それ自体は非常にめでたい話ではあるのだが、ルクレツィアは招かれたその席でさて何をしてやろうかと人の悪い笑顔を浮かべていた。
たまたま本を借りに来て捕まってしまったラヴィニアは、砂糖の入っていないお茶を啜る。
「普通に黙っていろ。魔女がそのような場にいるだけで面倒だというのに」
「えー? つまらなくない? 色々ばらしてやりたくない? 昔の人間嫌いでどうしようもなかった頃のあの子とか」
「もう誰も信じないだろう」
まもなく王の花嫁となる女は、かつての刺々しい空気は微塵もない。そういったものは四百年の間になくなってしまったのだ。
だからルクレツィアがそう言っても信じる人間は極少数であろうし、結局大した意味がないに違いない。
「でもなんか悔しくない? 折角懐かない猫を少しずつ手懐けて大人しくさせたのに、別の男に持っていかれるなんて」
「お前はティナーシャに結婚を勧めてたんじゃなかったのか?」
「だって男が死んだら戻ってくると思ってたし。まさか時間停止を解くとは思わなかったわよ」
ルクレツィアは笑いながらも少しだけ複雑そうな目を伏せた。空になっていた二つのカップにお茶を注ぎなおす。
「精霊術士なんて堅物で仕方ないって思ってたけど、入れ込んだらあれだものね。やんなっちゃうわ」
「そう思うなら好きに邪魔すればいい」
「嫌よ」
誰にでも牙を向く野良猫のような少女は、彼女の友人であり妹であり娘であった。そして今、人間の花嫁となる。
少しの沈黙に魔女二人は自分たちの歩んできた道のりを振り返った。先の見えぬ未来をもまた思う。
「―――― ま、仕方ないから祝ってやるけど」
「当たり前だな」
「とりあえず準備しなくっちゃ」
ルクレツィアが席を立つと、ラヴィニアは残ったお茶を飲み干す。
魔女の時代の終わりはこうして、ささやかな幸福の影に訪れたのだ。
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