双頭の蛇 12 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

「ラジュ、べたべたしていいですか」
「断る」
「ぐー」
飛びつく前に珍しくそんなことを聞いてきた女は、すげない返答に目に見えて凹んだ。音で表すなら「べしゃり」と言うほどに。
それだけを見るなら可哀想だとも言えなくもない。だが、それだけで諦めるような人間ではないこともまた彼はよく知っていた。
予想通り一瞬項垂れた彼女はすぐに顔を上げると、今度は別の要求をしてくる。
「ラジュ、抱っこしてください」
「やだ」
「猫なら」
「洗っていいなら」
「嫌ああああああああだああああああ」
冗談なのだが、これを言うと彼女は必ず逃げていく。
実際今も彼の手の届かない部屋の隅っこまで逃げてから、ティナーシャは恨みがましい目でラジュを睨んだ。
「貴方は猫で洗われることがどんなに嫌か分からないからそういうこというんです」
「分からないって。風呂に入るのと、どう違うんだよ」
「まず、服を着たまま水を浴びるところを想像してください」
「うん」
「次にその水が、ねーばねばのでーろでろだと思ってください」
「……うん」
「そして、五十人くらいの筋肉隆々の禿げ親父が……」
「もういいから猫になって」
「最後まで聞いてくださいよ!」
ティナーシャは叫びながらも子猫に姿を変える。
その小さな体を抱き上げながら、ラジュは猫の姿で風呂に入ることは「何だか分からないけどとりあえずすごく嫌なこと」なのだと適当に片付けたのだった。