双頭の蛇 11 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

じゃがいもの皮をくるくると剥いて隣にいる女に手渡す。彼女はそれを受け取って一口大に切り分け始めた。手際よく料理していく。
美味しそうな香が鍋から上がってきた。少年は芳香に目を細める。
「それ、どこの料理なの?」
「私の生まれた国です。少し味付けを変えてありますけど」
ティナーシャは言いながらまた一つじゃがいもを受け取った。「貴方、皮剥き上手ですね」とくすくす笑う。
「皮くらいは剥けるけど。料理はやったことない」
前までは食事は叔父の家で一緒に取っていたのだ。だが彼女が訪ねてくるようになってからは二人で食事を取っている。
怪しさ極まりない彼女を叔父の家に連れて行くよりは、自分だけに被害を留めた方がいいと思ってのことだが、意外にも料理は味がよく、彼女は嬉しそうである。
白い皿に盛られた料理をラジュは手伝って食卓に運んだ。二人は向かい合ってテーブルにつく。
ラジュは自分の分を取り皿に分けながら女に尋ねた。
「料理ってどうすれば出来るの?」
「え。そんなこと聞いてどうするんですか」
「自分でやる時の参考に」
「私がやりますよ」
微妙に答になっていない答だ。少年は苦い顔になる。
「そうじゃなくて。自分で出来ないと困るかもしれないじゃん」
「困りませんよ。私がいないってことは貴方に別の恋人がいるってことでしょうし。その時はその人がやってくれるでしょう?」
「料理できない子だったらどうするの」
「私と結婚すればいいんじゃないですか?」
「ぐあああああああああ、話が通じない!」
まったく会話が噛み合わない。
だがそれでも、この料理を一生食べられるならそれでもいいかな、とこの時ラジュはちらりと思ったのだった。





「…………鍋が爆発してるぞ」
「してるね。どうしてだろう」
「お前がやったんじゃないのか?」
「多分、私」
黒こげになっているのは鍋というより壁だ。オスカーは頭を抱えたくなる。
ちょっと目を離した隙にどうしてこうなってしまったのか。鍋の蓋を抱えて立っている幼な妻を、彼は苦笑混じりに見下ろした。小さな頭を撫でる。
「―――― お前と結婚してもこれだな」
「御免なさい」
「いい。怪我がないなら」
オスカーは白い頬についた煤を拭う。そうして彼女から蓋を取り上げると、「今日は街にでも出るか」と料理の出来ない妻に向って笑った。
ラジュがティナーシャと食卓を共にしていた時より、百年以上後のことである。