双頭の蛇 07 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

ティナーシャはラジュに抱きついたまま喚いていたが、すぐに諦めると転移門を開いた。砦の中庭、訓練場の隅に転移する。
すっかり夜になってしまっているせいか、辺りに人影はない。彼女は巻きつく場所を首から腕に変えて少年を見上げた。
「おやすみですか? 部屋に戻りますか」
「戻る。そろそろ不味いから離れて」
「うー……」
彼女は手を放すと暗闇の中に消えた。十秒後、代わりに黒い子猫が飛び出してくる。
少年は猫を抱き上げて頭に乗せると部屋に戻る廊下を歩き始めた。自室の前にたどり着いた時、丁度デファスと出くわす。
「お、点呼ぎりぎりだな。年上の恋人にでも会ってたか?」
「恋人じゃないですって」
言った途端に頭の上の猫が両手でわしわし殴ってくる。
だが全然威力のないそれをラジュは無視して部屋に入った。後ろから点呼表をつけ終わったデファスも戻ってくる。
「猫が怒ってるぞー」
「いつものことですから」
「その猫、妙に賢いよな。お前にべったりだし」
「色々ありまして」
ラジュは頭の上に手をやって子猫を抱き上げようとする。けれど怒っているらしい猫はその手をたしっとはたいてきた。
少年はそれでも首の後ろを掴んで吊り下げる。真っ黒い猫の真っ黒い瞳を彼は睨んだ。
「あんまり暴れると、洗うぞ」
その一言で猫はぴたっと大人しくなる。項垂れながら枕元で丸くなる猫を軽く撫でて、彼は埃を落とすために浴室に向かったのだった。