双頭の蛇 04 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

朝起きると枕元で寝ている子猫を抱き上げる。
そのまま頭を二、三度叩くとようやく「彼女」は小さな欠伸をした。ゆっくりと丸くなっていた体を解く。
半分寝惚けているのかラジュの顔に頭をすり寄せる子猫を、同室の友人が目ざとく見つけて指差した。
「お、猫だ! お前の?」
「俺の猫」
「いいなぁ、触らせてくれ」
「駄目」
そっけなく断ると、相手は「けち」と笑い出す。その間にラジュは部屋の扉を開け、猫を外に出してやった。
ろくに働く気のないらしい貴族の男は昼近くまで起きてこない。その間に「彼女」は猫として眠っていた部屋から男の部屋へと戻るのだ。
時折見かける「彼女」の美貌に賛辞を惜しまない友人は、今の猫がまさかその「彼女」とは思っても見ないだろう。
ラジュも自分で信じられないくらいだ。予想外のことをしでかすにも程がある。
なおかつ彼女は時折人間の姿のままでも人目を忍んで彼に会いに来るのだから心臓に悪いことこの上ない。
ひょっとしてわざと見つかってクビになるのを狙っているのだろうかと勘ぐりたくなるくらいだ。
たった三年。だが今はそれがとてつもなく長いことを彼は知ってしまっている。
果たしてそれまでの間に何の問題も起こさないでいられるかどうか、それは彼よりも彼女にかかっていることであろう。
顔を洗うために寝台を下りた少年の顔を、友人は怪訝そうに覗き込む。
「お前、誰が相手なの」
「何が?」
「厨房のミア? あの子お前のこと好きそうだもんな」
「……だから何が」
「口紅ついてる」
遠慮ない指がラジュの口元を指差す。
その意味することを知って思わず絶句した少年は、今夜彼女に会ったらきつく注意しておこうと、決定事項にいれたのだった。