愛の妙薬 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

「ティナーシャ様、失敗しちゃったんですか!」
「駄目! 駄目すぎて死にます!」
談話室の中に転移してきた女は、瓶を投げ出すと机に突っ伏した。
シルヴィアが何を言っても顔を伏せたまま「駄目!」としか言わない。そうとう精神的に緊張を強いられたようだ。まるで子供の駄々である。
苛められたのか違うのか、けれどこの様子では事態は進展というより足踏みだろう。
やがてひとしきり凹むと彼女は「解析に戻ります……」と言って消えてしまった。
シルヴィアは残念に思ったものの、さすがにあの状態のティナーシャを更に押して計画を続行する気にはなれない。
彼女は溜息をついてテーブルの上に転がった瓶に手を伸ばした。だが瓶は指に触れる直前で別の人間に拾い上げられる。
「だから無理って言っただろ」
「ドアン! どこ行ってたのよ!」
「いや。怖いし。巻き込まれたくない」
「もう一歩だったのに!」
「そのもう一歩が進まないのがあのお二人なんだよ」
「したり顔がむかつく!」
何と言われてもドアンは彼女の言いがかりや悪口は聞きなれているので痛くも痒くもない。
彼は手の中の瓶とその中身を確かめた。琥珀色の飴が日の光を受けて美しい艶を帯びる。
「あと四つか。さて、誰に飲まそうかな」
「ちょっと! それどうするのよ!」
「せっかくあるんだし有効利用しないとな。お前と違って問題にならないような使い方するから平気だよ」
「駄目だってば! 返してよ!」
シルヴィアは立ち上がると瓶を取り返そうとする。しかしそれより早くドアンは後ろに下がって彼女の手に空を切らせた。すかさず呪文を詠唱する。
「シルヴィア、転移使えるようになれよ」
「待ってって!」
腹立たしい捨て台詞と共に姿を消してしまった同僚に、彼女は豊かな金髪をかきむしる。
悔しさに満ちた「みぎゃー!」という叫び声はその後、城の講義室にまで届いた、ということらしい。