神の名 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

「わぁっ!」
夜中に突然大声を上げて飛び起きた王妃に、オスカーは共に目を覚まさせられる羽目になった。
膝を抱えて目を丸くしている彼女を眺める。何だか前にもこんなことがあった気がするが思い出せない。
「どうした」
「空から落っこちる夢を見ました……。こ、怖かった」
「………………」
階段を一段踏み外すくらいの夢なら彼もたまには見るが、空から落っこちた夢などさすがにここ十年見ていない。
彼は呆れてティナーシャの髪を引いた。
「いつもふわふわ浮いているからそういう夢を見るんだ。ちゃんと床に足をつけとけ」
「ぼーっとしてると浮いちゃうんですよ。考え事してる時とか」
「お前の魔法はだだ漏れか?」
普通の魔法士ならば飛ぶのにそれなりの構成や集中がいるというのに彼女はそうではないというのだろうか。
オスカーは元通り隣で横になる彼女の頬をぷにぷにと指で突きながら溜息をついた。
「足首に鉄球をつけて眠れば、そういう夢を見ないかもしれない」
「何もしてないのにそんなのつけてるって、どこの元暗殺者ですか」
「何だそれ」
「こっちの話です」
まったく意味不明でよく分からない。
だが、いつものことだからして放置することに彼は決定した。彼女の体を腕の中に抱き寄せる。
「ならこれで我慢しろ」
「寝ても離さないでくださいよ。あと一緒に落っこちないでくださいね」
「お前の夢の中までは責任持てない。が、まぁ落ちないよう祈っとく」
頭を撫でてやると、もう彼女は眠り始めている。
その安心しきった安らかな寝顔に彼は微笑すると、共に目を閉じて眠りについたのだった。