双頭の蛇 03 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

目が覚めると顔のすぐ横にしっぽがあった。
何だろうと思って、ラジュはそれを掴む。掴んで思い切り引っ張る。
「ぎにゃ!」
と変な声を上げて飛び上がったのは黒い子猫だった。猫は彼の胸の上に飛び乗ると恨みがましそうな目で睨んでくる。
「猫だ」
「私ですよ!」
女の声に一瞬で目が覚めたラジュは、しかし飛び起きる前に元の姿に戻ったティナに四肢を拘束されて敗北の声を上げた。
彼女はぼけーっとした寝惚け眼で下に敷いている少年を睨む。
「とっても痛いです。眠いです。寝ていいですか」
「寝ていいから離して。っていうかしっぽは体のどこにあたるの」
「聞きたいんですか?」
ティナは妖艶に笑うと体を寄せてくる。不味い質問だった、と気づいた時には彼女の顔はすぐ前にあった。
抵抗する間もなく深く口付けられる。這うように口内をくすぐる舌の艶かしい動きにラジュの気は遠くなった。
―――― これは今までで一番不味いかもしれない。
と思ったのも束の間、抗いがたい衝動が背筋を駆け抜けていく。僅かに残っていた眠気を凌駕する欲情に何も考えられなくなった。
彼女が顔を離すと同時に押さえつけられていた力が緩む。その華奢な体をラジュは逆に組み敷こうとして――――
「眠い。寝ます」
「………………」
ほんの二、三秒でまたすうすうと寝息を立て始めた女を少年は全身を震わせながら見下ろす。
やり場のない何だかよくわからない腹立たしさに血管が浮き上がりそうになった。
しかし彼の内心などお構いなしに彼女は丸くなっており、目覚める気がないのは明らかである。
「寝起き悪……。襲うぞ」
大体本当にしっぽはどこだったのか。
ともかく痛いのは本当らしいので、今後一切引っ張らないようにしようと固く心に決めて、彼は眠りこける女の頭を軽く叩いたのだった。