mudan tensai genkin desu -yuki
「姉上、お綺麗ですよ。東国にいるという珍しい白い猿もかくやの美しさです」
「何で猿と比べるのよ!」
「いえ、同じ白でしたので」
何ともいえない沈黙が部屋の中にたちこめる。運悪くその場に居合わせた数人は視線を逸らしたが、言った本人は平然としていた。
花嫁姿の王女は類稀なる美貌を引き攣らせて弟を睨む。どう割って入ろうか考えているウィルをよそに、ルイスは続けた。
「猿がご不満でしたらアザラシとか」
「へーえ。面白いことを言うわね」
「面白いことを言っているつもりはありませんが」
「あなたとは一度決着をつけてやろうと思ってたのよね? 今やりましょうか」
「僕は別に構いませんが、ドレスが汚れますよ」
「あー二人とも、そこまでにして」
アカーシアを抜いたウィルが間に入ると、彼の姉弟はさすがに口をつぐんだ。これ以上事態が拡大するようなら父王が出てきて全員怒られることは確実である。
一度それで三人ともいい大人だというのに中庭の池掃除をやらされたのだ。引き際は見極めるべきであろう。
フィストリアは長い自分のドレスを見回すと口をとがらせる。
「大体これ、母様のドレスなんだけど。似合わない?」
「とんでもない。よくお似合いですよ」
何を聞くのかとでも言わんばかりに姉に返すルイスは真面目そのものだ。フィストリアは矛盾に頬を膨らませた。
「でも猿」
「猿も目が大きくて可愛らしいです」
「………………あなたね」
それ以上は言葉が続かなかったらしい。怒りを笑いが駆逐したのか花嫁は肩を震わせて笑い出す。
やがて彼女は弟に向かって「将来自分の花嫁にそれ言ったら、その場で破談になるからね」と注意すると、部屋を出て大聖堂へと向ったのだった。
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