mudan tensai genkin desu -yuki
「父上、ねこ作って」
「無理」
即座に返されてルイスは頬を膨らませた。
城の大浴場には今は父王とその息子二人しかいない。三歳のルイスが海で泳いでみたいと言ったのに対し「まずは泳げるようになってから」と言われてこうなったのだ。
母親と風呂に入るときには、彼女は魔法を使って水で色々なものを作ってくれる。
それが当たり前になっていたルイスは父にも同じ要求をして―――― 当然ながら拒否された。
「なんで? 母上はできるよ」
「お前……。あいつに出来ることが俺にも出来ると思うな。俺は魔法士じゃないんだぞ?」
「でも、まりょくがあるよ」
「あっても使えない。使い方も分からん」
離れたところで水飛沫を上げて泳いでいたウィルがそこで笑ったのは、彼も「魔力があっても使えない」人間だからだろう。
けれどルイスはいまいちその違いが飲み込めなくて不満の声を上げた。
「じゃあ、母上におしえてもらったら? 見たらきっとおぼえたくなるよ」
「見たことある。あいつはよく風呂でそういう遊びをしてたからな」
広い浴室の向こうで、それを聞いたウィルがおかしな表情になる。けれどルイスにはその表情の意味が分からなかった。
彼は自分の両手を取って泳がせている父親になおも食い下がる。
「えー。じゃあおしえてもらおうよ」
「お前が覚える方が早いさ」
オスカーは息子を抱き上げて浴槽の外に出すと、「悪いが、そろそろ時間だ」と言って出て行った。
代わりにウィルがやってきてルイスの体を拭くと二人で部屋に戻る。
その後、ルイスは母親に「父上は母上がお風呂で水のねこ作っているの見てたけど、おぼえたくないんだって」と不満を洩らし、彼女の顔を引き攣らせることに成功した。
彼女はその晩、夫の首を絞めながら「子供にろくでもないことばらさないでくださいよ!」と青筋立てて怒る羽目になるのだが、それは誰も知らないお話。
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