双頭の蛇 02 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

「とりあえず足出すの禁止。下ちゃんと履いて」
とラジュが言ったのは予防線の為である。押されて押されて押し流されてしまう前に、できるだけの手を打っておこうと思っただけだ。
「足ですか? 何故また。動きやすいんですけど」
「履いて」
「分かりました」
ティナが頷くと同時に彼女の手の中には長衣が現れる。足首まで覆うそれを彼女がとりあえずで纏ってしまうと、彼はようやく安堵の息をついた。
「あとべたって触ってくるのも禁止」
「嫌です」
即座に断られた。
どうしてくれようか……とは思ったが、いかんせん勝てる気がしない。
ラジュは方向性を変えて頼むことにする。
「誘惑禁止。精神的によくない」
「誘惑しているつもりはないんですが」
「そっちはそうでも、こっちは違うから。禁止は禁止」
「誘惑されてくれないんですか?」
「禁止!」
「はーい」
素直にとは到底言い難い表情で肯定を示す彼女に不穏を覚えながらも、ラジュは説得の成功を喜ぶことにした。ひとまず彼女から距離を取ってみる。
窓辺で残念そうな顔をしている彼女から一番遠い部屋の隅で彼は椅子に座った。
「あのさ。俺が大人になるまであんたはあと数年は待たなきゃいけないだろ? そういうの嫌じゃないの?」
「全然。数年なんてすぐじゃないですか」
「大人になってもあんたを選ぶとは限らない」
「そうですね。それは残念ですけど仕方ないですよね」
彼女の答は予想外で、ラジュは驚きを禁じえなかった。これ程の執着を見せるなら、絶対自分が相手になると言うだろうと思っていたのだ。
彼は何故か落ち込んでいる自分を自覚する。諦めろ諦めろと言っているのは自分なのに、実際そうなったらもっと落ち込んでしまうのだろうか。
「そうしたら仕方ないから、お相手の方が死ぬまで待ちます」
「―――― え?」
「あ、殺したりはしませんよ。ちゃんと待ちますから。
 そうしたらその時はもう一度私のこと、考えてくださいね」
彼女は絶対おかしい。何かおかしい。本当に人間なんだろうか。
あまりの言葉に硬直してしまった少年は、「触っていいですか?」と聞かれ「駄目!」と言い返すまで、呆然と彼女の瞳を見つめたままでいたのだった。