双頭の蛇 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

旧トゥルダール奥地にある屋敷の一室。

「……お前は男を追うのに向いてないな」
呆れたようにそう言われてもティナーシャにはよく分からない。ただ首を傾げるばかりだ。
オスカーは呆れ顔で、今は身長差の少ない女の頭に手を置いた。
「何と言うか……直線すぎるぞ。もっと加減しろ」
「直線ですか? そんなつもりはなかったんですが」
「思い切り直線だ。突き刺さって突き抜けてる。普通にしてればそれでいいんだ」
「普通が分かりません」
当然と言えば当然、あまりと言えばあまりの返答にオスカーはしばし絶句する。
もともと力が強大すぎるせいで、恋愛ごとから意識して遠ざかっていた彼女だ。
それを口説き落としたのは彼であるのだから、彼女の方に異性を振り向かせる手際を期待する方が無理な相談なのかもしれない。
だがそれでも、勢いがありすぎて脅し紛いとも取れる彼女の攻勢にあった男は、ここで注意しておく必要を感じて言葉を探した。
「とりあえずあんまり初対面から触るな。驚くから」
「でも触りたいです。九十年ぶりなのに」
魔女はいいながら頭を乗せていた男の膝の上に、体ごとのしかかってくる。
猫がそうするように頭をすりよせて彼女は幸せそうに目を閉じた。
九十年は確かに長かったのだろう。久しぶりに出会った彼女は、精神にいささか不均衡を宿していた。
その結果があの攻勢だというのなら仕方がないのかもしれない。オスカーは苦笑して少しずつ落ち着きを取り戻しつつある魔女の額に口付けた。
「自分から委ねなくていいんだ。どうあっても俺はお前に惹かれるから」
「自信がありません」
「持て。分けてやるから」
「確かに貴方はちょっとくらい減らした方がいいと思います」
「図太くなきゃやっていけんからな」
長い髪を愛しみながら梳いてやると、魔女は心地よさそうな笑顔になる。
無防備なその表情を見ながらオスカーは、もし立場が逆転することがあったら、自分はどう彼女を振り向かせようかと少しだけ想像を巡らせたのだった。