mudan tensai genkin desu -yuki
「か、体中が痛い……」
談話室のテーブルにぐったりと突っ伏しているのはシルヴィアである。
ただそれは彼女だけではなく、他の四人の魔法士も同様だった。ただレナートだけが白い眼で彼らを見やっている。
「他者の魔法による変化は体に負担をかけるそうだから。全身筋肉痛くらいは仕方ない」
「まさかあんなことになるとはなぁ。壁に穴を開けただけで猫になるとは思わないぞ」
「壁に穴を開けたら普通クビだと思うが」
「久しぶりに減給された。三年前中庭に薬草を大繁殖させてしまった時以来だよ。あの時は刈り取りに一週間かかった」
「…………寛大な国だな」
これ以上彼らのぼやきにつきあっていても仕方ない。
レナートは書類を手に取ると立ち上がった。扉の前まで来て、ふと振り返る。
「シルヴィア」
「何ー？」
「痩せる必要はないと思うぞ」
返事は返ってこない。
ただ廊下に出て扉を閉めた後、猫の鳴き声のようなうめき声が聞こえて―――― レナートは小さく吹き出した。
「よく似合ってるじゃないか」
「あーうー……もう着替えていいですか」
「駄目。一週間はその格好でいろ。見せしめだ」
ティナーシャは自分が着ている丈の短いドレスを見下ろす。
それはかなり遠くから見てもそれと分かるほど、真っ黄色であった。思わず頭痛を覚えて彼女はかぶりを振る。
「えー、申し訳ありませんでした。もうしません」
「当たり前だ。しばらく猫っぽく話すか？ 身に染みるように」
「それって何の嫌がらせだにゃん！」
「―――― やっぱりやめよう。気持ち悪い」
王は自分で命令したくせに、嫌そうな顔でそう言うと仕事に戻った。
あんまりな反応にティナーシャは頬を膨らませ、自分のドレスのスカートを引っ張る。
「何で猫なのに私が分かったんですか？」
「言っただろう？ 外見はおまけだって」
「猫でも？」
「猫っぽく話してみろ」
「猫は体が疲れるから嫌だにゃー！」
「―――― これ以上ないくらい似合わんな……」
気分を変える様に深呼吸して、オスカーはお茶を一口すする。
こうしてファルサス城の毎日は代わり映えなく過ぎていくのだ。
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