禁転載
新年の儀は国によって行われる時間帯も、内容も異なっている。
だが一度それが済んでしまうと、子供たちなどは親たちと違って途端に暇になる時間がやってくるのだ。
ファルサス東部の離宮にて集まった六人の子供たちは、その日大広間で各人それぞれの退屈しのぎに精を出していた。
協調性のかけらもなく好き勝手をしている五人を見回し、最年長のセファスは口を開く。
「つまらないね。折角だから皆で何かやろうか」
それは、まず間違いなく騒動の始まりとなる合図である。
広間の片隅でお茶を淹れていたジウは溜息をついて、一時間後の自分がどうなっているかに思いを馳せたのだった。
こういう思いつきの遊びで、平和なものが採用されることはあまりない。
この日はシスイの提案のもと、木の板で羽のついた球を打ち合い、敗者は顔に落書きをされるという勝負をすることになった。
始終弟が母親から変な遊びを聞きだしていると知っているジウは、シスイをきつく睨んだが、彼は堪えているようには見えない。
一方そんな姉弟を無視して、セファスは全員に告げた。
「よし、魔法は禁止だ。二人一組になりなさい」
「了解」
六人は年齢や運動能力を元に、実力が突出してしまわないよう三組に分かれる。
末妹のエウドラは長兄のセファスが引き取り、イルジェは従者のシスイと、ジウはレーンと組んだ。
それぞれが木の板を手に取ると、くじ引きで総当り戦が開始される。
負けたくはないけれど率先して戦いたくないエウドラを背後に隠して、セファスはジウに笑いかけた。
「この勝負、僕が勝ったらファルサスに来るかい?」
「いいえ。まったくそのつもりはございません」
「兄上! こないだの女装の仕返しをさせてもらうからな!」
「やれるものならやってみなさい。僕はお前たち二人が相手だって負けないよ」
「レーン! 私にぶつけないでよ!」
無駄に熱していく二組をよそに、イルジェとシスイは木陰で本を開きつつ順番を待っている。
穏やかな午後。美しい離宮の庭園には、その後二時間にわたって子供たちの怒声と悲鳴が響き渡った。
色々と途中を省略して、優勝を収めたのはイルジェとシスイの二人組である。
赤い顔料をつけた筆で兄の額に「暴君注意」と書き込んだイルジェは、背後のシスイを振り返った。
「出来たか?」
「もう少しです」
紅筆を手に取った少年は、エウドラの顎を布越しに支えながら、小さな唇に紅を引いている。
他の者たちは細かいことを器用にこなしてしまうシスイの化粧の腕に、感心の目を注いでいた。
最後に王女の頬に紅粉を少し足すと、少年は手を離す。
「如何でしょう」
「上出来」
「大人びて見えるね、エウドラ」
「本当?」
ぱっと顔をほころばせた彼女は、閉じていた目を開くと五人を見回した。
その中で猫の髭を描かれたジウや、下手な化粧を施されているレーンを見つけて──── エウドラは途端に不安げな顔になると「シスイ! 早く鏡を持ってきなさい!」と命じたのである。
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